今週の脳
SNSで自分の投稿に「いいね」が集まっているのを見たとき、脳の中では何が起きているのか。
2018年にUCLAのチームが行ったfMRI研究では、13〜21歳の61人を対象に、自分や他人のInstagram写真を見ているときの脳活動を計測した。結果、「いいね」の数が多く見える写真を見たときほど、報酬回路の中心である側坐核(nucleus accumbens)を含む複数の脳領域の活動が強く上昇した。高校生の被験者ではこの反応が年齢とともに強くなる傾向が見られたが、大学生の被験者ではその傾向は見られなかった。
出典: Sherman, Greenfield, Hernandez, Dapretto, “Peer Influence Via Instagram: Effects on Brain and Behavior in Adolescence and Young Adulthood,” Child Development, 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28612930/
Research
今週読んだ論文: Dores, Peixoto, Fernandes, Marques, Barbosa, “The Effects of Social Feedback Through the ‘Like’ Feature on Brain Activity: A Systematic Review,” Healthcare (Basel), 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39791696/
11件の研究・504人分のデータをまとめたシステマティックレビュー。SNS上の「いいね」という肯定的フィードバックは、側坐核・腹内側前頭前皮質・扁桃体という、報酬処理に関わる脳部位を一貫して活性化させることが確認されている。 特に側坐核の反応の強さは、SNS利用の強度そのものと相関していた——脳の反応が強い人ほど、より頻繁にSNSを使う傾向があるということだ。一方で「いいね」が少ない・否定的なフィードバックは、腹外側前頭前皮質など別の回路を動かす。 性別や性格特性、フィードバックの送り手が誰かによる違いはまだ十分に解明されておらず、今後の研究課題として残っている、とレビューは結論づけている。
Experiment
この「Experiment」欄では、毎週ひとつ、ドーパミン・ベースラインに関わる小さな行動実験を試し、翌週号でその結果を正直に報告する。Vol.1なので今回は先週分の結果報告はない——これが第一回だ。
今週試すこと: 起床後1時間、スマートフォンを機内モードのままにする。
狙いは単純だ。上の2本の研究が示すように、SNSの通知や「いいね」は側坐核を刺激する。目覚めた直後、まだ活性化していない脳に、その刺激を最初に与えるかどうかを変えてみる、というだけの話だ。
治療でも矯正でもない。効果があるかないか分からない、ただのn=1の観察。結果は追って正直に報告する。
Bookshelf
今週の一冊は、スタンフォード大学の精神科医アンナ・レンブケ(Anna Lembke)による『Dopamine Nation: Finding Balance in the Age of Indulgence』(Dutton, 2021)。
依存症患者を長年診てきた臨床医が、「快楽と苦痛は脳内で同じシーソーの上に乗っている」というモデルを軸に、過剰な刺激がドーパミンのベースラインをどう押し下げていくかを説明する一冊。学術書というより臨床エッセイに近い読み口だが、引き合いに出される神経科学の枠組みは、この号で扱った内容と直接つながっている。2026年7月時点で日本語訳は確認できていないが、英語に抵抗がなければ一読の価値がある。
編集後記
The Dopamine Timesを始めた理由は単純だ。ADHDの診断を受けてから、集中力について自分なりに何年も調べてきた。「薬に頼るか、根性で乗り切るか」という二択で語られがちなこのテーマを、もう少し違う角度から——実際に脳の中で何が起きているのか、という視点から——見てみたかった。
この号で書いたことのほとんどは、まだ研究の途上にある分野だ。断定はしていないし、これからもしない。分かっていることと、まだ分かっていないことを、できるだけ正直に分けて書いていく。それがこの創刊号でいちばん伝えたかったことだ。
Vol.1はここまで。また来週。